得意淡然 失意泰然

昨年還暦を迎え改めてこれまでを振り返ってみると、赤面することばかりでとても自慢できるような人生ではありません。志望校に合格して有頂天になったものの、いざ入学してみたら雰囲気になじめず学校嫌いになってしまったことや、仕事上で信頼していた人に裏切られひどく落ち込んでしまったことなど、楽しかったことうれしかったことより、つらく苦しくて右往左往したことの方がよく思い出されます。
ただ不思議なことにそうしたことの方が、今になってみると懐かしさが募ります。これは決してそれらが楽しい思い出に変わるというのではありません。そういう事も時間が経って振り返ってみると、こんな事もあったなあと、掌に載せて見られるようになると言う事ではないでしょうか。
昭和の歌姫、美空ひばりが晩年好んで歌っていた『愛燦々』(小椋佳作詞作曲)に
それでも過去たちは
やさしく睫毛に憩う
という歌詞がありますが、これは人知れず涙を流したことのほうが今となってはただ懐かしい、それが却って生きる糧となっていることに気づいたという意味なのだと思います。ひばりさんは多難だった自らの人生に、この歌を重ね合わせていたのではないでしょか。
ところで皆さんは「色即是空」という言葉をご存じのことと思います。有名なお経『般若心経』に出てくる言葉で、「色」とか「空」についてはいろいろな解釈や説明がありますが、私はここでのキーワードは「即是」だと思っています。たとえば私たちは生と死、幸と不幸、勝ちと負け、平等と差別など、相反するものをあれかこれかと分けて考えます。しかし一日生きると言うことは一日死に近づくということでもあり、生も死もいのちの姿の裏表です。あるいは何かを得るために失わなければならないものも確かにあります。このように一見対立して見えるものも、お互いに相手があって初めて成り立つのです。丁度どれほど薄い紙であっても必ず裏と表がついてまわるように、物事には必ず分かちがたい二面性があります。「差別なき平等は悪平等、平等なき差別は悪差別」と言われる所以です。ここを「即是」というのです。
ところが私たちは、なかなかこの二面性に目が向きません。自分が一番かわいいという我見の物差しで一面しか見ずに、損得や幸不幸を判断して一喜一憂してしまうのです。
身近な例を挙げれば、私たちにとって最もつらいことのひとつが、「別離の苦しみ」(愛別離苦)であることに、皆さんも異論はないと思います。しかし「即是」からみればつらい別れをするということは、決して不幸ではありません。もしみなさんが今、ご家族や友人と幸せな日々を送っているなら、それはまことに結構なことではありますが、同時にそれはいつか必ずやってくる別れの苦しみを知らず知らずのうちに、自分の中に育てているということでもあるのです。ですからつらい別れをすると言うことは、その人と過ごした年月が実り多かった事の何よりの証しなのです。丁度山が高ければ高いほど谷は深くなるように、今がしあわせであればあるほど必ず愛別離苦がやってくるのです。むしろ本当の不幸はそういうつらい別れをするような人とすら出会えなかったこと、山もなければ谷もないようなのっぺらぼうの人生を送る事ではないでしょうか。

私の恩師はよく「人生はジャンケンポンだよ」と口にしていました。グーに負けたチョキも相手がパーなら勝ちですし、チョキに負けたパーもグーが相手なら勝ちです。このようにジャンケンには勝ちっ放しもなければ負けっ放しもありません。勝った負けたは時の運。勝ったつもりで負けていることも、その反対もまた然りです。若いときのあの失敗があったから今の自分があると思えたなら、その失敗は失敗ではありません。反対に若いときの成功に有頂天になって人生を誤らせてしまうこともあるでしょう。
この恩師は終戦後、大きな事業を興しこの世の春を謳歌していた(本人談)のに、ちょっとしたことで破産、一家離散の憂き目に遭いました。そして絶望の果てに全国を放浪し、たまたま縁あってある禅寺でよき師に出会い、四〇歳を目前に修行の道に入り、その後小さな山寺の住職をつとめながら布教伝道の生涯を送りました。苦労が糧となった人ならではの言葉だったと、改めて懐かしく思い返します。

「得意淡然 失意泰然」と言います。ものごとがうまくいって得意な時ほど、その喜びに溺れて有頂天にならず、むしろ淡々と事に当たり(淡然)、反対に落ち込んだ時には焦らず落ち着いて(泰然)、苦しみに沈み込まないというのです。私にはこれまで生きてきた以上の時間はもう残されていませんが、このような腰の据わった姿勢でこれからの日々を過ごしたいものです。

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